Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “初春から大人げない?”
 


      3


自分の手で調伏の陣を描く羽目になったことへ、
猛り狂った邪妖だったのは計算通りだったのだけれど。
何せ相手は、一種の思念的な存在。
その怒りが彼の力を増ささせてしまい、
蛭魔が前以て張っていた敷地への結界も何のその、
最後の力を振り絞り、
呪いの籠もった鋭利な大鎌、
術師へと振り上げたという流れだったのへ。
大外から見ていて先にそうと察した葉柱だったからこそ、
無茶とも見えた行動も、
全ては自分への注意を逸らさせたかった、
ただそれだけを思っての暴挙であり。

 「………で?」
 「だから。」

ある意味“相討ち”になったものの、
葉柱が昏倒したことさえ見届けられたかどうか。
相手の邪妖は、その身を蒸散させたほどの自滅へまで追い込まれたようで。

 「あっと言う間に封滅完了…って運びになったさね。」
 「いててて……。」

何がどう忌々しいやら、刀の形に立てた右手、
ていっと葉柱の額へ叩きつけてる陰陽師殿だったりし。

 「重いお怪我を負ってらっしゃるんですよ?
  叩いたりしちゃあいけません。」

セナが何とか窘めるものの、
そんな進言なんぞにあっさり言い諭されていたら世話はなく。
掛布代わりの、綿の入った袷の衿元、
さりげなくも直してやりつつ、
その所作を紛らせるようにと蛭魔が言い足したのは、

 「こいつはな、俺を庇わにゃならんと思ったんだ。
  それでの無茶をしたからにゃ、
  きっちり最後まで見届けるのが道理ってもんだろが。」

 「………道理。」

ついつい繰り返してしまったところ、
何だ何が言いたいかと、ギランと鋭い眇目を向けられてしまい。

 「あ、いえ。あのそのっ。」

あたふた慌ててその場から立ち上がり、
薬湯でもお持ちしますねと、そそくさ逃げてってしまった書生くん。
今更、蛭魔を怖がる彼じゃあないはずが、
ああまで慌てたところを見ると、どんだけおっかないお顔になっていたのやら。
そんなやり取りへ、何とか苦笑が洩れた葉柱、
やや鼻息が荒いまま、
それでもあらためてこっちを見下ろして来た蛭魔だったのへ、
眠そうな眸をして訊いてみた。

 「まさか、お前が俺を担いで連れ帰ったのか?」
 「まぁな。」

ったく重いわ嵩張るわ、と。
お顔を斜めにそっぽを向いて、
まだ言い足らぬか文句を並べかかったものの、

  すいっ、と

遮りたかったものか、
葉柱の手が伸びて来ての…、
だがそれにしては口ではなく目の縁に留まり、

 「塩、吹いてんぞ、ここ。」
 「………………え?」

指の腹にて軽く撫でてやったのが目尻の縁。
途端に、

 「な、何言ってやがんだよっ。////////」

暗がりでも判るほど、顔が赤くなった判りやすさよ。
誰ぞを呼ぶでなくの自分で侍従殿を担いで帰ったのも、
そりゃあ案じたからだろし、
目が覚めぬ間を一体どんな心地で過ごしたのやら、
語らずとも明らかになったようなもの…と。

 “言っちまったら、
  またぞろ大騒ぎしつつ殴って来やがんだろうしな。”

それまでの威張りまくりは、
一体 何へのどういう誤魔化しだったやら。

 「ま、そんなに心配しなくとも、俺ァ傷の治りは早いんでな。」
 「だっ、だだだだだ誰が心配なんざしてっかよっ!」

ぎゃあぎゃあ、稀に見るうろたえようで大騒ぎするものだから、
逃げてったはずの書生くんまでが戻って来の、
天聖界から降りて来たばっかな くうちゃんが、
“はややぁ”とお眸々を丸くしたのち、
この冬も冬眠してない あぎょんさんへ、
びっくりしたのよとお喋りしに行ったほど。


  何だか、微妙な始まりようのこの年ですが、
  はてさて、どんな日々がやって来るのか。
  今から楽しみなような…おっかないような。
  よろしかったら、どうぞお付き合いのほどをvv







  〜Fine〜  12.01.23.


  *久し振りの邪妖退治のお話です。
   ちょいと気負ったか、
   妙に長い尺になっちゃいましたが、
   そこはどうかご容赦を。
   不意を突かれるのが弱点だなんて、
   おやかま様、まだまだ修行が足りませんぞ?

   「ああ"? なんだってぇ?」
   「こらこら、筆者を脅さない。」


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv   

ご感想はこちらへvv  


戻る